067|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「新撰組双璧」

男たちは、何事もなかったかのように、来た道を屯所に向い歩きはじめる。
沖田総司と斎藤一は、駆け抜けて来た夜道を、今は急ぐこともなく、何を話すこともなく、
ただ二人は、無言で肩を並べ屯所への道を歩いていた。

壬生菜畑に沿うように屯所へ向う道に入り、斎藤一の目は、木の枝に掛けられている黒い布を捉えた。
そして、それをスルリと手にした。

  「ほう、なかなか洒落た仕立ての羽織だな・・・
俺が通りかかった時、女がこれを被り数をかぞえていた、
京の女とは中々面白い遊びをするものだな、沖田」
事の一部始終を見ていたであろう斎藤一は、含んだ笑いを浮かべながら、その羽織を沖田総司に差し出した。
羽織を手にした総司は、安堵したかのように口元を綻ばせた。

「鬼ごっこだろ・・・鬼を見ずに、百数えたら鬼に捕まらない・・・
女は、鬼から逃げられたんだ・・・鬼も女を追わずにすんだようだ」

バサッ

沖田総司は勢い良く黒羽織を拡げ、その身に纏う。

「お前に、借りができてしまったな」溜め息まじりの笑いを浮かべながら、沖田総司が口を吐いた。

「ん? ああ・・・そうだったな、あんたに貸しができたんだ」
斎藤一は、思い出したかのように頷き、
さて、何で返してもらおうか・・・と含み笑いを浮かべる、だが沖田に移された眼は、笑っていなかった。

「風邪でも引いたのか?」斎藤の探るような鋭い眼光が向けられる。

沖田は黙って、雨雲が薄れた夜空に目を移した。

「ああ、夏風邪をちょっとね・・・参ったよ、誰にも言うなよ」

斎藤に目を移し、沖田が恍け口調で答えた。
そして、正面に向き直り、もう一度念を押した。
「誰にも言うな、頼む。」復唱されたその言葉は、声色を変えて重く響き、
そして沖田総司が凝視している道の先には、雲より溢れた月明かりに照らされた新撰組屯所があった。

斎藤一もまた、屯所を見ながら呟く

  「・・・誰にも・・・か」

  瞼を閉じ、すべてを承知した・・・と
フッと溜め息を漏らすように苦笑いをする。
そして、厳しい表情を緩めながら、「腹でも出して寝てたんだろ」と
今度は斎藤が、恍け口調で沖田をからかう。

沖田も「う〜〜〜ん」と思案する仕草をした。
「ははは、そうかもしれないな・・・京の夏は暑かったからな、凄まじく熱いぞ」
暑かった夏を思い出したかのように沖田総司が笑った。

「そうか、熱いか、京の町は・・・」
まだ、其の身に伝わる夏の名残の暑さにそれを実感した。

「結構だ、暑ければ暑いほどいい、俺は京の熱さをこの身に感じるために来たんだ」
満足げに斎藤が頷く。

「そうだな、次に来る夏は、来年の京の夏はもっと・・・もっと激しく、
熱くなるかもしれないな・・・」

夏が過ぎ去ろうとしている夜空を仰ぎ、
そして秋となり、冬を越し、春を向え、
そして、次に来るであろう京の夏に、その思いを馳せた。