063|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「橋」

平間重助が、自分に向ってくる沖田総司の刃に眼を剥き、身を引こうとした
・・・が、まさにその刃を身に受けようとした其の時、沖田の刃が動きを止める。

そして、平間に向けられていた刀の切っ先が、微かに震え始めた。
突然、沖田総司が苦し気に息を乱し始めたのである。

「グッ」息を詰まらせる
「ゴホッ ゴホッ」堪えきれぬように咳き込む

沖田の斬り手は、辛うじて柄を握りながらも、左手の甲を噛むように己の口元に宛てがい、そして乱れた息を整えようと、大きく肩を揺らしていた。

平間重助は、目の前で突然激しく息を乱し、それでも構えを取り、殺気だけは漲らせている沖田総司を凝視している。
そして、先ほど迄の恐怖の存在であった追っ手が、新撰組最強の刺客が、自分の眼前で苦しんでいる姿は、平間重助の生への執念の炎を燃え立たせた。

・・・この狼は、弱っている・・・

平間の一撃が沖田の天中目掛けて振り下ろされる。
刃の鎬で辛うじて受けながらも、息をすることも間々ならぬ其の体は、押し下げられる。

濁流の轟音か・・体の内から逆流してくる音が耳を塞ぐのか、総司は乱れる呼吸を止めることで、残された感覚で、口に宛てがっていた左手を脇指に導く。

・・・この間合いならば脇指しを以て刺すこと叶う・・

斬り手だけで、諸手の刃を受けている沖田が、平間を仕留めることが出来る唯一の手段であった。
そして、それは自らも一刃を受けることと引き換えの手段でもある。
沖田総司の左手の動きに平間重助もまた、沖田の捨て身の戦法に気づいている。

・・・・一刀で沖田を叩き割らねばっ
この男は、刺し違えてでも自分を殺るつもりなのだっつ

どちらが先に、今ぶつかり合っている刀への力を、次の動きに流すか・・・
その瞬間が勝負であった。
だが、平間は自らが生き残ることだけを望み、沖田は只、平間を刺すことだけに、その力を使おうとしていたのである。

膠着した刃と刃が、今まさにその力を崩そうとした、その時、旋風が橋を駆け上る。
・・・来るっつ・・・

沖田総司は、屯所から平間を追っている間、其れをずっと感じていたのである。
新撰組隊内でも随一とされる自分の足の速さに付いて来れ、だが、決して追いつこうとも、追い越そうともしない・・・
敵か、味方か、わからぬその気配を総司は感じ取りながらも、平間を追っていたのである。