053|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「血の接吻」挿絵「血の接吻」沖田総司、お梅イラスト

男は、女に向って優しげに笑った。
男は、怯える女を抱き寄せ、その背後で刀を女に向けて構える土方歳三を、制するように手のひらを向ける。
土方歳三は、それに従うかのように、刃の構えを解いた。
そして、沖田総司は土方歳三に向けた手のひらを、今度は天井に向け、土方に差し出した。
その仕草に、土方は一瞬眉をひそめた。
それは、土方の握る刀を自分に貸せ、という意志であった。
しかし、土方はそれに従わなかった。
その役目は、自分だと決めていたからである。

女を・・・自分の同志たちに女を・・斬らせるつもりはなかった。
そして、その土方歳三の胸中も沖田総司は知っていた。
だれも女を斬りたくなどない。
そして、それは土方歳三も同じであろう。 だから、自分が・・・

そしてそれは、土方歳三にも伝わっていた。土方は再び刀を構えた。
沖田総司は、差し出した手を引いた。
二人の男の沈黙の会話は終わった。

そして、怯えきった哀れな女が、自分に必死にしがみつき、助けを求めているのである。
一時はこの女に憎悪も感じた。しかし、今目の前にいる怯え、立つ事すらできぬ女に、それは感じなかった。

ただ・・・哀れであった・・・

「お願いっ・・助けっ」叫ぼうとする梅の唇はその懇願する言葉を 沖田総司の唇で塞がれた。
総司は只、これ以上、女の叫びを聞きたくはなかった。
沖田総司の接吻に一瞬戸惑った・・・が、次の瞬間、愛しい男の唇を手に入れたことに気づき、白い腕を総司に絡ませ、離れぬように唇を合わせた。
そして、乳飲み子が母親の乳房を貪るように舌を絡ませ、沖田総司の唾を味わう。

挿絵「血の接吻」沖田総司、お梅イラスト

愛しい男のそれは・・・甘かった・・・甘く・・・
・・・そうこれは・・・血の・・・

血・・・っつ

「・・血の・・味・・・」それに気づいた瞬間、咄嗟に総司の体を突き放した。
眼を見開き、沖田総司を凝視し呟く、「あ・・あんさん・・っつ」

ズブッツ

お梅の最期の言葉が、何を言おうとしたのか・・・
それは、わからなかった・・・封印されたのである・・・
土方歳三の刃によって

沖田総司から一瞬離れた梅の体を、背後より彼女の急所に向けられていた土方歳三の刃が、お梅を貫いたのである。
そして、沖田総司は、梅の白い首筋に唇を這わすように呟いた。

「芹澤先生がお待ちです・・・早く逝ってあげてください。」

梅は、黙って崩れ落ちた。