051|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「刀痕」挿絵「刀痕」土方歳三、永倉新八イラスト

ばたばたばた
無遠慮な足音をさせて一人の男が、梅を拒絶した出口より入って来た。
怯えながら顔を上げ、その男の顔を見た梅の眼は、再び恐怖におののく。
仁王のような形相をした永倉新八が、入って来たのである。

「すまん、土方さん逃げられたっ
今、井上さんが追っているっ」

永倉新八の逃げた男への向けられた言葉は、怯えおののく梅を凝視しながら、土方歳三に報告された。
土方の冷たい眼が、永倉に向けられる。

「なぜ、お前も追わない」

その言葉に永倉新八は、歯をギリッと鳴らせた。
「俺は、この女をっ」
そう言い放つが速いか、永倉新八は大きく振りかぶりながら、その刃を梅に振り下ろした。

ガッ
ガキッツ

永倉新八の刃を、土方歳三の刀が巻き落としながら、その反動を使い土方は永倉の刃を刷り上げた。
一瞬、弾き飛ばされそうになる刀を食い止めようとし、柄に力を込めたすぎたあまり、咄嗟に大きく振りかぶってしまう。

ドスッツ

担い手の意志に反した刃は、勢いよく鴨居にのめり込む。 刀の自由を奪われた永倉新八の首筋を、背後に廻った土方歳三の冷たい刃が狙う。

「何するんだっ、土方さんっつ」永倉が、嗚咽するように叫んだ。

土方の冷たい抑揚のない言葉が続く、
「永倉、お前なにか履違えていないか、
お前に当てられたのは、第一に平間重助を確実に始末ことだ。
それをしくじり、追いもせずここに来るとは、
貴様は、わたくしごとに走るつもりか。」

土方歳三は、其の言葉を終えると同時に、永倉の首にあてがっていた刀の峰を刃先に返した。
土方の眼に容赦はなかった。
ただ、その鋭い光は「逆らえば斬る」そう永倉に伝えた。

挿絵「刀痕」刀を振りかぶる永倉新八、背後より刀を突き付ける土方歳三イラスト

永倉新八は、生粋の武士である。突きつけられた刃を、畏れたわけではなかった。

・・・わたくしごと・・・
その一言に、我に返り、そしてこの新撰組の存亡をかけた勝負に、自らの私怨に先走ったことを恥じたのである。

「すまん、土方さん。」その言葉を認めるかのように、土方歳三は刀を下ろした。
そして、永倉は踵を返し、平間重助の追捕の命令に従った。

永倉新八と入れ替わるように息を荒げた原田左之助が、部屋に飛び込んできた。

  「野口は、今夜ここへは戻りそうにない」

土方歳三の指示で、野口健司の様子を伺いにいっていた原田左之助がもどってきた。
人目のある場所でやるわけには、いかない。

「野口は、今夜のことに気づいていそうか?」
原田は土方の問いに「いや、それはない。何も感づいてはおるまい。」
そういって首を振った。

「そうか、なら別の手をとる。あとは、永倉らと動いてくれ」
土方は原田にも平間追捕を促した。

原田左之助は、内心安堵した・・・この部屋より出る事が、できることを・・・
これより、この部屋で土方歳三が成さねばならぬことに・・・立ち会わずにすむことに・・・原田左之助は、詫びるかの如く深く土方歳三に一礼し、踵を返し部屋を出た。

そして、部屋には土方歳三と、立つ事すらできずに怯えきったお梅が、取り残された。
お梅は、混乱しながらも必死に考えた・・・この男たちが、平間らを狙っていることは間違いない・・・それだけはわかる。そして自分は・・・どうなるのだ・・・

「うっ、うちは何も知らしまへん。うち、なんも見て・・・・」

お梅は震える声で、必死に哀願した。
土方歳三は、微笑みながら梅を宥めた。

「俺は、貴方に危害を加えるつもりはない。ただ、このままこの場を去ってくれれば、何もしませんよ」

土方歳三のその言葉を信じきることはできずとも、梅は必死に頷いた。 そして、梅は思い出していた・・・
田総司の言葉を・・・「この壬生より去れ」と言われたことを