049|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「刺客」挿絵「刀」「お梅」イラスト

ピトン・・・ピトンッ

  雨粒が弾く音が時折耳についた・・・しかし、それは意識を持ち、起きているものだけにしか聞き取れない音・・・・。
小栄が用足しのために自分との床を、そっ・・・と抜け出したのすら、気づかぬほど平山五郎は、泥酔し寝入っていた。女を抱いた姿のまま、平山は大の字で裸体をさらしていた。
広げた利き腕に何かがのし掛かる。
平山の深く沈んだ意識が微かにそれを感じとり、愛おしげに「それ」を自分の胸に寄せようとした。
しかし、「それ」はビクともしない、いや、それどころか「それ」の乗る腕が動かない・・・平山の意識が、防御の本能により目覚めようとする。
酔いたりといえど、武士として刀を取ろうする・・・が、自分の腕に乗る何かが、それを阻んだ。

暗闇に眼を凝らし、自分の動きを封じるものを凝視した。
それは、足だった・・・男の足が、自分の利き手を押さえ込むように踏み付けていた。
半身をねじり、男を払おうとした。そして男の顔を見ようとした・・・
しかし、平山の眼に映ったものは、
ねじれた自分の体だった。
男の刃は、頭を浮かせ体を捻り、起きようとした平山五郎の首を、一刀のもと切り落としていたのだ。

男は、血糊がまとわりついた刃を拭うこともせず、右手に隣接する芹澤鴨の部屋、梅のいる部屋に歩を進める。

バンッ

雨戸を、戸板を蹴り倒す激しい音が鳴り響いた。

・・・しくじったかっ・・・男が左手に隣接する部屋に意識を飛ばした。

平間重助は、普段からあまり酒を口にしなかった。いわゆる下戸である。
それが、功を奏したのであろう・・・いや、彼はすでに角屋の宴より警戒していたのかもしれない。
近藤らの態度が、いつもと「違う」そう感じとっていた。何がどうだと言えない、直感が彼にそう警告したのである。
平間重助の部屋に男たちが忍び込んだ時、平間はすでに鞘より刀を抜き放っていた。そして、侵入者の刃を交わし、床を共にしていた遊女糸里を連れて逃げたのだ。

雷でも落ちたかと思うほどの、雨戸が蹴り飛ばされる激しい音に

「な、なにっつ」恐怖のあまりお梅は部屋を出ようと手を障子にかけた
・・・がそれは、一人の男によて開けられた。

「あ・・・あんさんはっ」梅の目の前には、平山五郎の血を滴らせた刀を持った男が  立っていた。
挿絵「刀」血糊のついた日本刀イラスト

そう、土方歳三であった。

「さきほど、この屯所内に不逞な輩が這り込んだ。・・・こちら来ませんでしたか」

土方歳三は、梅を宥めるように微笑みながら、尋ねた。
が、その笑みは梅を安心させるどころか身震いさせた。
梅の眼は、優しく微笑む土方歳三の顔に注がれていない。
彼女の怯える眼は、血糊のついた刃に、隠す事もせず握られている土方歳三の刀に、釘付けになっていた。

咄嗟に、梅は廊下に出られる、土方の背中に阻まれた出口に、身を滑り込ませようとした。お梅の本能が、危険を知らせたのである。しかし・・・

挿絵「お梅」日本髪、着物の女イラスト
「きゃっ」梅があられもなく畳みにうつ伏せに倒れる。
土方が、梅の足を払ったのである。
そして、さきほどまで繕われていた微笑みが彼の顔からは消えていた。 土方歳三の冷たい眼は、梅を捕らえた。