021|新撰組活劇「いつか何処かで〜沖田総司物語」|小説「祇園山緒」

土方は、沈黙をまもった。
大和屋事件のことすら芹澤を非難することもなく。
だが、芹澤一派の行動は、逐一に土方の耳に入れられた。ほんの些細なことすら報告させた。蜘蛛が獲物を捕らえるための糸を音もなく編み巡らせるように静かに獲物がかかるのを待った。

すでに会津公より命令は下っている。
近藤の腹も決まった。あとは、獲物がかかるのをまつだけである。

ヤツは必ず尻尾を出すはずだ。
芹澤の大和屋焼き討ちで己の立場が微妙に揺らいでいること、その五日後に起こった会津の長州勢一掃による尊皇攘夷連中の追討強化、必ず仲間と連絡をとる、必ず。

そして、土方が待ちに待った知らせを持ち、市中に潜伏していた諸士取調役兼観察方の山崎烝がもどって来た。
そして、この上なく特上の知らせを土方歳三に耳打ちした。
土方の眼が妖しく光った。

「芹澤も無茶をしてくれたものだっ、この大事な時に」
新見錦は舌打ちしながら、客人がくるのを待った。

・・・こうなれば、一気にことを進めるしかない。
そのために、こうして危険をおかして同胞たちに連絡をとったのだ。
新見は廊下を通る足音に耳をすませながら待った。

「こちらでございます」隣の座敷に誰か通された。

・・・来た・・・

新見錦は、隣の部屋に通された者たちをまっていたのだ。 暫くしたらこちらに来るはずである。
待った。
そして、今度は新見の部屋の前に女将が客人を連れてきた。

「お連れの方がお越しになられました。」

・・・おかしい・・・なぜ、わざわざ女将に案内させるのだ・・・
そして案内された男が入って来た、新見は、凍りついた。 入って来たのは、土方歳三だった。

「これは、新見局長・・・いや、今は私と同じ副長でしたな」
土方歳三は、笑みをこぼしながら新見の前に座った。だが、その眼だけは笑っていなかった。

「な、なぜここに・・・」

「私も急に昼間から、酒を飲みたい気分になりましてね」
土方歳三は、新見錦の杯をとり、そして飲んだ。

そして、空いた盃に並々と酒をたし、それを新見にすすめた。
止めどなく流れる脂汗に、新見は苛立ち、その盃を払いのけて叫んだ。

「用件を言えっつ」
土方は、新見の前に証文の束を投げた。
「あんたが、芹澤さんの名前で借り付けた証文だ。
この中には、あんたが勝手に使い込んだやつも入っている。
勝手な金策いたすべからず・・・だ。
新撰組局中法度に背いた行いですな、切腹していただきます。」
土方歳三が言い放った。

「ふざけるなっ、何をいまさら、こんなものをもちだして切腹しろだっつ
これは、芹澤さんや俺達が新撰組の資金のためにやったことだろっ
さんざん俺達に資金調達させておいて、何を今さら腹を切れだっつ」

新見は刀を抜き、土方に突きつけた。だが土方は微動だにせず、氷のような笑みをたたえながら

「確かにそれには感謝しています。
だがな、その中の大半を、あんたは水戸の天狗党に流していたはずだ。
そうだろ」

新見は歯を食いしばりながら唸った。
「そんな証拠がどこにあるっつ」

「証拠ですか、証拠なら隣の連中が、そうだろ。
そして、あんたはいずれ新撰組を、天狗どもの隠れ蓑にしようと狙っていた。 だが、今回の長州一掃であせったんだ。 そうだろうよ、これより先、会津を中心に京の町で尊皇浪士たちの詮議が厳しくなる。京に潜む水戸天狗党連中とて例外じゃない。 そうなる前に、新撰組を自分の、いや、天狗の支配下にする・・・違うかい」

「いいか、新撰組に棲むのは鬼どもだ
天狗じゃねぇよ」
挿絵「天狗の残像」刀を脇に置き座る土方歳三イラスト
「うっ・・・・
はっ、そんなでっちあげ、今ここで貴様を斬れば済むことだ」
新見はそれしかないと意を決した。

土方歳三が腕が立つとはいえ、自分とて神道無念流を極めた者だ、そして隣の連中とて同じ。
もし、土方が隊の手練れを数人引き連れて来ていたとしても、
・・・逃げ切れるっ
土方を斬り、隣の同胞たちの元へ。